廃村尾平
まだしっかりと形を成している家屋もある。
化学の本があった。
年表は1949年までしかない。
屋外に出てしまった竈。
木が自然に還る時間が経っても、鉄やコンクリートはそうもいかない。
それはどこの廃墟でも同じ。
ずいぶん古そうな新聞の切れ端。
一目で戦前、または戦時中のものだと分かる。
辞書の宣伝はドイツ語と中国語ばかり。さすがに英語は全くないようだ。
下半分しかないので日付は推測の域を出ない。
ただ、「満州事変二周年記念」「齋藤首相から〜」「来る十月六日」など記事の内容から
考えると1933(昭和8)年9月19日の可能性が高い。
そろそろ帰るとしよう。
バスはもうここには来ない。
かつて夜間も明かりが絶えなかったことから「不夜城」とも呼ばれ
2000人以上が暮らしたこともあるという尾平。
繁栄は儚い夢のように終わり廃墟だけが残った。