松尾鉱山
「雲上の楽園」と謳われた栄華も今は昔。時は経ち、人は去り、残されるは廃墟のみ。
―――猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ―――
かつて15,000人が暮らした鉱山アパートにも冷たい風が吹きすさぶ。廃墟となって程なく40年、当時の面影など知る由もない。5月も半ばだというのに残雪未だ多く、桜が咲くこの場所で、風に耐え、雪に耐え、惜しむことなくその堂々たる姿を見せてくれる。
ふと、思った。ここで人の声は聞こえずとも、廃墟の声なら聞こえるかも知れない。
もし廃墟が私に語りかけてくれると言うのならば、しばし時を忘れ、その語りに耳を傾けてみようではないか。
八幡平アスピーテラインを上っていくと、
目の前に現れる廃墟群。
写真集やネットなどで幾度となく目にしてきたが、
実際に目の当たりにすると言葉もない。
最初に入ったのは「い」の棟。
アパートは全部で11棟あり、それぞれ
「い」「ろ」「は」「に」「ほ」「へ」「と」「ち」「り」
「ぬ」「る」と名前がついていた。
錆付いた郵便受け。
床も抜け落ちている。
コンクリの破片の他に、丸っこい石が
ゴロゴロしている。
一体なぜだろうか。
あそこにあるのは至誠寮だ。
上の棟へとつながる中央階段。
転がっているのはダイナマイトの箱。