向之倉の廃集落
向之倉から一旦下りてまた登ってきた。
甲頭倉はまだ多くの家が残っている。
しかし人はいない。
正面にあるのが寺。
集落の中でも一際堂々とした佇まい。
小さな神社だが、現役である。
それでも人が住まなくなれば、家は荒れていくものだ。
最後には向之倉のようになってしまう。
荒れていく中でも、ここにはまだ人の匂いがある。
それは廃墟と呼ぶにはあまりに生々しい。
林道を下りたところで、75〜80歳くらいの男性が木を切っている(薪炭を作っている)場面に出くわした。
甲頭倉と関係のある方と見受けられたので話を伺ってみることにした。以下、一問一答。
―――いつ頃まで上(集落)に住んでみえたのか。
10年くらい前(1996年頃)までかね。林道ができてからは車で上れるようになったけど、それでも辛くてね。
山を下りることにした。
―――林道ができる前はもっと辛かった。
そうだよ。昔は向こうの谷の方から歩いて登ってたんだ。若い時じゃなきゃできない。
―――傷んでいる家もあったが。
(林道の)途中に車があったろう。地質調査か何かで、ダイナマイトで発破しよる。その振動で家が傷むんだ。
だけど修理する者もおらん。若い者はみんな出て行っちまってな。
―――戻ってくることは。
ないなあ。やっぱり、わしらのように家や村に愛着がないんだろう。街へ出て行くと、もう滅多に戻ってこん。
せめて村の行事の時くらい戻ってきて欲しいもんだが。
―――木を切ってみえるが。
昔は金になる、金になる言うて、みんなで競って木を切ったもんさ。だけど今じゃあね。
切った木を業者が引き取ってくれんこともあるよ。
―――向之倉の方は、ほとんど家が残っていない。
あそこは寺ごと移転したから、人が離れるのも早かった。今の林道ができる前は橋を渡った左側に道があってな。
そこから向之倉まで登ってた。もう古い道はなくなってしまっただろうけど。
ここ(甲頭倉)はまだ寺も神社もあるから、行事の時はみんなで村に戻るんだ。
だけど年寄りばかりだから、いつまで続くか・・・
都会ではマンションなどの建設が増える一方、
急速に過疎化が進んでいる地域もある。
山間部で受け継がれてきた文化や伝統を守ることは、いまや難しいのかも知れない。